「ゾンビ・ロレックス再生の物語。ワケありエクスプローラーが蘇るまで」

投稿者: | 2024年1月3日

ヴィンテージ腕時計の定義とは何だろうか?
ロレックスの腕時計に限って言えば、1980年代ごろまでに製造された個体と言ってもよいだろう。本当のヴィンテージと呼べるのは60年代まで、という意見も重々承知のうえで、正規のアフターサービスがすでに終了しているCal.1500番台のムーブメントまでを搭載したものと考えてよさそうだ。

こうしたヴィンテージのロレックスと付き合ってゆくうえで重要になるのが、メンテナンスに対応してくれる専門店の存在だ。修理やオーバーホールの現場とはどのようなものなのか? それを理解するための絶好のサンプルが、あの時のゾンビ・ロレックス、というわけである。

あのゾンビと筆者が出会ったのは2020年頃。「ちょっと状態を見て欲しい」とSNS経由で送られてきた第一印象は、明らかに「クロ」だった。そしてなんかおかしい。「エクスプローラー Ref.1016」のように見えるが、傷だらけなうえにラグもひどく痩せていた。要するに、過度なポリッシングを繰り返したために、もともとの形状が失われてしまっているのだ。

ゼンマイワークスに持ち込まれた状態の“ゾンビ”。リファレンスの刻印は「1016」となっているが、シリアルナンバーと年代が合わない。ラグがひどく痩せてしまって、ケースのプロポーションもオリジナルとはほど遠い。
ゼンマイワークスに持ち込まれた状態の“ゾンビ”。リファレンスの刻印は「1016」となっているが、シリアルナンバーと年代が合わない。ラグがひどく痩せてしまって、ケースのプロポーションもオリジナルとはほど遠い。
当時モノとおぼしきリベットブレスも、エクスパンションのスプリングが伸び切ってしまってズルズルだった。それでもイタリア・ミラノでこの個体を発掘したオーナーは愛着を持っているようで、メンテナンスして使いたいという。

どんなヴィンテージ・ロレックスでも、愛好家が最初に行うのはシリアルナンバーチェックである。現行モデルとは異なり、ヴィンテージ・ロレックスの場合は、ブレスレットを外した部分の12時側にリファレンスナンバー、6時側にシリアルナンバーが打ち込まれている(ちなみに現行モデルでは、見返しリングの6時位置にシリアルが刻まれているので、ダイヤル越しにでも確認できる)。しかしこのゾンビの場合には、リファレンスと製造年代が合致しないのだ。

ヴィンテージ腕時計を学ぶ──「ゾンビ・ロレックス再生の物語。ワケありエクスプローラーが蘇るまで」

リファレンスは確かに「1016」と刻まれている。しかし90万台のシリアルナンバーからは、おそらく1952年に製造されたケースだと分かる。エクスプローラー Ref.1016の初出は1963年とされているわけだから、このシリアルナンバーは公式に存在しない番号だ。

要するに、Ref.1016と同サイズのオイスターパーペチュアルのリファレンスを打ち替え、ダイヤルをスワップした個体であり、真正のロレックスであることは間違いないが、エクスプローラーではない、ということになる。

そんな個体を甦らせようというのだから、パートナー選びは慎重にしたい。ということで、時計業界の関係者が頼りにしている東京・京橋の「ゼンマイワークス」に“ワケありロレックス”の診断をお願いすることになった。
2014年に設立された歴史の浅い修理工房だが、その前身はパテック フィリップやショパールの輸入総代理店であった一新時計のサービス部門。代表の佐藤努さんは、気さくな人柄と確かな技術で、我々時計業界人に慕われる存在だ。ゼンマイワークスはまさに時計修理の駆け込み寺なのである。

さてその見立てによると、このゾンビはボロボロの外装に似合わず、ムーブメント自体の状態は良い。スクリューバックの裏側に彫り込んであったオーバーホールの履歴からも、このゾンビは定期的なメンテナンスを受けてきた個体だと分かる。

搭載されていたCal.1560は、Cal.1530の高精度版(クロノメーター仕様)とされるモデルで、切れ込みの入った分割ローター(愛好家はバタフライローターとも呼ぶ)も、1960年代当時の特徴を示している。

ヴィンテージ・ロレックス、プロの診断は?
1960年代に用いられたバタフライローターを取り外したところ。ボロボロの外観に対して、意外にもキチンとしたメンテナンスを受けてきたムーブメントのようだ。
1960年代に用いられたバタフライローターを取り外したところ。ボロボロの外観に対して、意外にもキチンとしたメンテナンスを受けてきたムーブメントのようだ。
「正規のオーバーホールは受けていないですね。調整はイマイチだけど、メンテナンス自体はキチンと受けてきたムーブメントだと分かります。マイスロステラスクリューもちゃんとしているし」(佐藤)

Cal.1560の特徴は、ロレックス独自のマイクロステラスクリュー(現行モデルではマイクロステラナット)によるフリースプラング方式を初めて採用したムーブメントであることで、それまで用いられてきた緩急針を備えていない。

また、Cal.1530に用いられていたミーンタイムスクリューを調整するには、ムーブメントをケースから取り出す必要があったが、Cal.1560のマイクロステラスクリューは搭載状態でも調整可能。精度だけでなく、整備性も大幅に向上したムーブメントだ。

「ゼンマイワークスに持ち込まれるロレックスのムーブメントで最も多いのが、この1500番台です。しかし純正パーツが手に入り難くなってきているので、変なパーツが組み込まれていることもあります。例えば、見たこともない秒カナバネが付いていたり。それでも直らないなんてことはありません」(佐藤)

ムーブメントの状態が思いのほか良かったので、これは通常メニューのオーバーホールで十分な性能を取り戻せそうだ。
表面に大きな傷が入っているうえ、光にかざすと内部にも無数のクラックが見える。こうなってしまったら、いくら表面だけをキレイにしても防水性は取り戻せない。
表面に大きな傷が入っているうえ、光にかざすと内部にも無数のクラックが見える。こうなってしまったら、いくら表面だけをキレイにしても防水性は取り戻せない。
そうなると、メンテナンスのポイントはボロボロの外装に集中してくる。何としても確保したいのは防水性だ。この年代のロレックスに使われているプレキシガラス(プラスティック)の風防は、割れや欠けがなくても、内部にクラックが潜んでいることが多い。案の定、傷だらけの風防を光にかざして見ると、無数の細かなクラックが見て取れる。

こうなると、いくら表面を磨いてもロレックス コピー防水性は絶対に復活しないので、いさぎよく交換してしまったほうがいい。Ref.1016用の風防は、1/100mmくらいの差で2種類あるため、サイズの合う方を装着してある。後はパッキン類を交換すればOKだ。

「プレキシガラスの風防は、ドームの部分を絞り出した後に、内径と外径を旋盤でひいて仕上げてあります。今回はサイズが合ったけど、もし合わなくても調整はできます」(佐藤)

右側が交換用のプラスティック風防。Ref.1016用は、取り付け部分のサイズが1100mmくらいの差で2種類ある。今回は現物合わせで装着した。
右側が交換用のプラスティック風防。Ref.1016用は、取り付け部分のサイズが1/100mmくらいの差で2種類ある。今回は現物合わせで装着した。
このゾンビに装着されていたブレスレットは、Ref.7206というナンバーを持つなかなかのレアパーツ。外観は1960年代風のリベットブレスなのだが、バネで伸び縮みするエクスパンション機構を備えている。そのバネが切れてしまっているため、修理しなければズルズルの状態だ。

理想はデッドストックへの交換だが、もし見つかったとしても、100万円は下らない出費となるに違いない。このゾンビにはもったいなさ過ぎるので、数あるリプロダクト品の中から雰囲気の合うものを、筆者が選んで装着した。

ヴィンテージ・ロレックスの美点は、もともと頑丈な機械だけに、適切なメンテナンスを施しさえすれば、何度でも現役復帰できるところだ。

「もし自分がロレックスの自動巻きを買うとしたら、この1500番台を選びます。純正パーツは手に入りにくくなってきているけど、ジェネリックにも良いモノが増えているし、日常使いには十分な精度も出せるでしょう。後継機の3000番台や3100番台だと、折れやすいネジなども増えてくるのですが、この1500番台はまだ頑丈に作られています。リュウズを引いたときの仕草もこちらのほうが好きですね」(

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