江口さんがまずトレイに並べたのは2本のチェリーニ。アシンメトリーなケースが特徴的な「Ref.4017-9」(1974年製)と、8角形のベゼルを持つブレスレットウォッチの「Ref.4350/8」(1981年製)だ。特にRef.4017シリーズは「キングマイダス」とネーミングされ、故ジェラルド・ジェンタがデザインを手掛けた唯一のロレックスとしても知られている。
1950年代から単独のコレクションとしてスタートを切ったが、70年代にはチェリーニ・コレクションの中に統合され、間もなく廃盤となった。Ref.4350は最初からチェリーニとしてデザインされたモデルだが、中には「マイダス」の名を刻んだダイヤルもあり、キングマイダスの系譜に連なる1本、または後継機とされることもあるようだ。
「サブマリーナーやGMTマスターといった、ギアウォッチのカッコ良さは分かるんですけど、決してスーツには似合わない。またチェリーニは、スポーツモデルとは違う次元で、ディテールの細かさを持っているんです。継ぎ目の目立たないブレスレットとか、キングマイダスのケースが持つ、レザーストラップにスッと繋がっていく雰囲気とか、ロレックス コピー専門店腕にしたときにだけわかる心地よさがありますね」
「もしチェリーニでは尖りすぎていると感じるなら……」と、江口さんが取り出したのは2本の「オイスター パーペチュアル」系。ロレックスの中ではスタンダードな位置付けのモデルであり、それゆえに人とは違うチョイスが中々に難しい。
特に「Ref.1500」のリファレンスを持つ「オイスター パーペチュアル デイト」は最もベーシックな1本だが、江口さんが選んだ1961年モデルは、楔形のインデックスにビッグロゴという、特徴的なダイヤルを持っている。
さらに年代を遡る1951年製の「オイスター パーペチュアル」(Ref.6065)は、いわゆる「バブルバック」の中でも珍しいフーデッドラグを持っている。組み合わされるブレスレットも、純正のクロムウェル社製がまだ生きている。
「あまりヴィンテージに馴染みのない一般の方には、基本的に1970年代の製品をおすすめするようにしています。もちろんロイヤル オークが最初なのですが、他にもジェンタのデザインしたオメガのCラインケースとか、時計をデザインすることに初めて注目が集まった時代だと思うんです。そうした中にはシンプルな美しさを持った時計もたくさんあります」
取材時に用意してくれたドレスウォッチはロレックスだけではない。中には、パテック フィリップの初代カラトラバ「Ref.96」もあった。愛好家による通称は“クンロク”。生産されたのは1951年。砲弾型のバレットインデックスを持つシルバーダイヤル。18KRG製のケースもこの時代ではやや珍しい。
「やはりロレックスのバブルバックと、パテック フィリップのRef.96は、時計史の中でも重要なピースなんです。決して一般にすすめられるモデルではないけれど、一度は触れてほしいですね」
江口さんが推奨する1970年代のデザインピース。その真骨頂とも言えるセレクトがカルティエの「クリスタロー」だ。時代で言えば、ちょうど「マスト ドゥ カルティエ コレクション」が登場し始めた頃。その上位ラインにあたる「ルイ・カルティエ コレクション」に属する1本だ。
搭載されるムーブメントは手巻きで、8角形の縦長ケースを優雅な3ロウのゴドロンでまとめている。ダイヤルからもわかるとおり、カルティエ・パリで製造されたモデルであり、正直筆者も実機を見るのは初めてというレアピースだ。しかし、ここまでに登場した時計のほとんどがゴールドモデルなのだが、金相場が高騰しているこのご時世に、なぜゴールドウォッチなのだろうか?
「ラグジュアリースポーツ一辺倒だった時代は終わって、時計好きは次のモデルを探しています。さらに言うと、投機目的で時計を選ぶ時代も終わってしまった。そうした中で、時計好きに刺さるモノ、さらに主線からはやや外れているモノという観点で選ぶと、自然とこうしたチョイスになってくるんです」
店名からも分かるように「EWC SHOTO」(江口時計店)は同時に、江口洋品店でもあるのだ。店内にはマルジェラ期のエルメスを中心としたヴィンテージアパレルも並び、顧客はそれらに合わせるような時計選びを常に模索している。江口さんは「オシャレをしたくないなら腕時計を着ける必要なない」とも言い切るが、ラグスポ自慢や投機需要から解放された今だからこそ、もっと自由な時計選びが面白いのだろう。時計好きにとっては、今がいちばん幸せな時代だ。